フェイストゥフェイス
第2273回「怖いものは何ですか?」
理由はよく知らないのですが、幼いころ住んでいた家では、梁のところに能面が飾ってある部屋がありました。
それは物心ついたころからあって、最初はその中の般若の面が怖くてたまりませんでした。しかし、成長するにつれだんだん見慣れてくるものなのでしょう。いつしか般若はそこまで怖くなくなり、むしろその隣にある、微笑んでいる小面のほうが恐ろしく思えてなってきました。
小面は見れば見る程不気味で、なんだか面にこっちを見られているような気がしました。それまで気にも留めていなかった面だったはずなのに、意識しはじめたが最後、それはすさまじい存在感を放っているように感じられました。般若とは比べ物にならないほどの恐怖の対象になり、しまいには、その部屋に入るのを避けるようになってしまったほどです。
それでもたびたび夢にも出てきて、うなされることがありました。
程なくして引っ越しがあり、あの能面がどうなったのかはわかりません。ネットなどで小面の写真を見ても、まあ小さい子はこれ怖いかもな、とは思うものの、当時抱いていた絶望的な恐怖心はなく、特になんともありません。年月を経ていつの間にか平気になってしまったのでしょう。
「昔家にあった能面の話」は、ぼくの中で、よくある幼少の記憶の一つに片づけられていました。
ブログになにか書こうと考えていた時そんなことをふと思い出したのですが、ぼくが当時なぜあれほどまでにあの部屋を、小面を恐れていたのか、今日になってその一端が垣間見えた出来事がありました。
懐かしみつつも確認のつもりで先日母に対してそういう思い出話をしたところ、このような返事が返ってきたのです。
「え?飾ってあったのは般若一枚だけだったけど・・・」